ごめんね、
僕
だった
「あれ?どうしたの、こんな時間に」
時刻は午前2時を回っている。コンビニに行くと彩智がいた。
「なんか、眠れなくて」
そう笑って答える彩智に、私も。なんて返しながら近寄る。……もっとも、私はただ単に夜更かしをしていただけなのだけれど。
ふと、彩智の手に抱えられている物に目が行く。
「メモ帳……?」
私の口からこぼれた言葉に気付き、恥ずかしそうに笑う。
「あぁ、実は今漫画を描いてて。コンビニの雰囲気ってどんなだったかなーって」
そういえば漫画家を目指してるとかなんとか言ってたっけ、と曖昧な記憶を辿ってみる。――と、突然軽快なメロディーがなり始めた。
「あ、ごめん電話だ」
申し訳なさそうに私から離れて電話をし始める。相手は多分、祐樹だろう。祐樹と彩智、私の3人は家が近く、小さな頃からよく一緒に遊んでいた。まぁ大きくなってからはそんなことも少なくなっていたのだけれど、最近になって2人は付き合い始めたと聞いた。祐樹、彩智が寝てたらどうするつもりだったんだろう、なんてぽけーっと考えながら彩智の姿を遠目に見る。
可愛くてスタイルも良くて、頭も良いし性格だって良い、おまけに絵も上手い。私にはないものを全て持っている。彩智は幼い頃から私の自慢で、憧れでもあった。
そんな非の打ち所の無い彼女は、いじめられていた。入学してすぐのことだ。奈那子―リーダー格の女子だ―になぜか目を付けられたらしく、上履きが無くなった、体操着がみつからない、とよく言っていた。彼女が、誰も居ないところで泣いていたのを私は知っていた。知っていたけれど、何もしなかった。奈那子が怖かったわけじゃない。
「ごめんごめん。祐樹が今からこっち来るとかなんとか言い出してさ」
彩智が電話を終えて戻ってくる。
その言葉に適当な相づちを返しながら、スポーツ飲料を手に取り、レジに持って行く。
「147円になります」
500円玉を出して、おつりを貰う。じゃあまた、と彩智に言い残してコンビニを出た。後ろから、私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
家に帰る気にもならず、公園に寄る。大きな通りに面しているからかこんな時間なのにも関わらずまだ明るい。特になにをするわけでもなく公園の入り口で立ち止まり、ポケットに入れたおつりを少し弄ぶ。ジャララ、と重たい音がする。思い出したように先ほどのペットボトルを開け、喉を潤す。まさに、その表現がぴったりだった。こんなにも自分は喉を渇かしていたのかと、自嘲的な笑みがこぼれる。
私は彩智が嫌いだった。好きで大好きで、たまらなく、嫌いだった。きっと私は、喜んでいた。彼女がいじめられるのを見て、喜んでいた。
「……帰ろ」
いつの間にかじとじとと降り始めた雨が、私をぬらしていた。