君の歌があるから
並ぶ郵便受けから、自分宛の封筒を取る。ひとつ、大きな封筒があった。エレベーターに乗り自室のある階へ向かいながら、送り主の名を、息の止まる思いで見つめていた。
急いで部屋に戻り、乱暴に封を開ける。出てきた白ROMにはYELLの文字。貼られた付箋には、遅くなってごめんなさい。貴女の本を手に取れる日を楽しみにしています。と書かれていた。
大きくなったら。
根拠のない約束をしたあの日から何年が経ったろうか。彼は夢を叶え、私は約束を破った。
気付ば夢を追うのを馬鹿なことだと思っていた。彼を馬鹿にしながらも、心の何処かでは彼との約束を忘れられずにいた。
パソコンを立ち上げ、CDを入れる。赤いヘッドホンは、いつかのインタビューで彼が愛用していると答えていたものだ。そこから流れるメロディは、ただただ純粋だった。
ばか。
あまりも自然にこぼれた言葉は、その自然さ故に、対象を見失っていた。
「待ってなさいよ」
引き出しをあさり、プロットの書かれた汚い紙束を取り出す。まだ私にその資格があると、貴方が言うのなら。
……それはきっと、私の建前だった。